2021年に投稿したHACCPに関する記事を、最新の法改正や国際基準を踏まえてアップデートしました。飲食業界の方々がHACCPの基本を理解し、実践に活かせるよう、わかりやすく解説します。

HACCPとは何か?
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、食品の製造・加工・調理において、危害要因を分析し、重要管理点を特定して管理することで、食品の安全性を確保する衛生管理手法です。
HACCPとは
Hazard Analysis and Critical Control Point の略です。
Hazard | 危害要因
Analysis| 分析
Critical | 重要
Control | 管理
Point |点
- 危害要因分析に基づいて
- 健康に影響をもたらす原因となる可能性のある食品中の物質、または食品の状態の発生を
- 防止または排除、もしくは許容できるレベルにまで低減するための工程(重要管理点)を決め
- その工程を重点的に管理する
という、一連の過程を体系付けた仕組みのことです。
つまり
HACCP(ハサップ)とは食品の安全性の向上を目的とした健康危害の発生を予防するシステムのことを言います。
HACCPの歴史と国際的な位置づけ
- 1960年代:米国の宇宙開発計画(アポロ計画)で、宇宙食の安全性確保のために開発。
- 1971年:米国食品防護委員会で初めて公表。
- 1993年:Codex委員会がHACCPを食品衛生の一般原則として採用。
- 2025年:Codex委員会が食品衛生の一般原則を改訂し、GHP(適正衛生規範)の重要性を強調
日本におけるHACCPの制度化
日本では、2021年6月に改正食品衛生法が施行され、すべての食品等事業者に対してHACCPに沿った衛生管理が義務化されました。これにより、飲食店を含むすべての食品関連事業者が、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理を実施する必要があります。
日本におけるHACCPシステムの普及
日本においては1998年より国としてHACCPシステムの導入支援が開始されました。
それ以前においても
- 1975年:日本におけるHACCPシステムの最初の紹介
- 1994年:日本におけるHACCPシステムの社会的認知
- 厚生大臣の私的検討会「食と健康を考える懇談会」報告書
- 1995年:食品衛生法の改正 総合衛生管理製造過程承認制度の導入
- 1998年:国としてHACCPシステム導入支援
- 食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時処置法(HACCP手法支援法)
まだ新しい言葉のように思う方も多いかもしれません。
しかし1975年、今から46年前に初めて日本でそのシステムは紹介され、1990年代前半にはその考え方を織り込んだ施策が次々と打ち出されました。
しかし、あまり注目されませんでした。
その後、1994年当時の厚生大臣の私的検討会である「食と健康を考える懇談会」n報告書のなかで、食品の衛生管理に本システムを取り入れる必要性が勧告されました。
この勧告を受けて、翌年に改正された食品衛生法の中で、「総合衛生管理製造過程」(通称、マル総)という概念で、HACCPシステムが製造加工基準の定められている一部の食品を対象にした承認制度としてスタートし、社会的な認知が図られるようになりました。現在、乳・乳製品、食肉製造、容器包装詰加圧加熱殺菌食品、魚肉ねり製品、清涼飲料水を対象に施工されています。
この制度は、食品製造加工業者が総合衛生管理製造過程に基づいて製造加工した食品である旨を厚生労働省に申請して、安全性が確保されていることが認められれば、従来の製造加工基準が免除されるというものです。
従来の法的に定められた基準で製造するか、HACCPシステムで製造するか選択することが選択できることになったのです。基本条件はCodex委員会のガイドラインの内容が満たされていることです。
日本におけるHACCPシステム導入現場の課題
●HACCPシステムは「難しい、費用がかかる」という思い込み
●HACCPシステムと一般的衛生管理プログラム「それぞれの目的と役割の理解不足」
●「危害要因分析と検証が重要である」ということに対する認識不足
●食品部生物の知識を持ち、それを現場で活用できる「人材不足」
●HACCP導入は「食品企業の当然の責務」であるとの認識不足
HACCPシステムの特徴
- 食品の安全性を向上させる
- 予防を目的とする
- 科学的根拠に基づく
- 原材料から最終製品までの工程管理
- マニュアル化:7原則12手順
- 記録化(文書化)
よく勘違いされることがありますが、HACCPシステムは事後対応のものではありません。
食品安全性の向上を目的とし、食中毒などの健康危害の発生を予防するシステムです。
HACCPシステムの主な目的
HACCPシステムは、食中毒予防の原則と密接な関係があります。
「付けない」「増やさない」「無くす」「持ち込まない」
HACCPシステムの目的は「無くす」こと
=「食品中の存在にする可能性のある食中毒菌などの危害要因を、健康を損なわないレベルに低減、または排除する」ことです。
もし、「付けない」「増やさない」あるいは「持ち込ませない」という原則が、あらかじめ満たされていれば「無くす」という原則は必要ないですが、現実としては不可能です。
そのため、HACCPシステムが開発されましたが、HACCPシステムによる「無くす」ための労力をできるだけ少なく、かつ効果的に行うために、他の原則が前提になるというのが衛生管理の考え方の基本です。
一般的衛生管理プログラム
HACCPシステムとその導入の前提となる一般的衛生管理プログラムの関係
「一般的衛生管理プログラム」=HACCPシステム導入の前提
- 危害要因が出来るだけ存在しない原材料を使用すること
- 危害要因の汚染防止や増加防止を確実に行うための清潔で衛生的な食品取扱環境を確保すること
衛生的に優れた食品を生産するための3条件
- 安全で衛生的で品質の良好な原材料の使用
- 食品取扱者を含む清潔で衛生的な作業環境の確保
- 取扱いにより食品中の危害要因の発生の防止
消費者に安全な食品を提供するには
飲食店においては仕入れた原材料を調理し消費者に提供する工程を担うわけですが、実際に安全な食品を提供するためには
原材料を生産する農場から消費者の食卓に至るまで一貫した衛生管理が必要です。
この考えはフードチェーン(原材料から摂食までの食品の一連の流れ)という言葉で表現されています。
フードチェーンいずれの段階も以下の組み合わせで衛生管理を効果的に行える、と言う考え方です。
- 上段:HACCPシステム
- 中段:一般的衛生管理プログラムに相当
- 下部:原材料
上段 | HACCP | HACCP | HACCP | HACCP | ⇠汚染排除対策 | |||
中段 | GAP 適正農業規範 | GMP 適正製造規範 | GMP 適正製造規範 | GHP 適正衛生規範 | ⇠汚染防止対策 | |||
下段 | 飼料 | と畜 | 原材料 | 製品 | ||||
飼育農場 | ➡ | と畜場 | ➡ | 製品工場 | ➡ | 流通・消費 |
一般衛生管理プログラムはそれぞれ違いますが、いずれも同じ概念です。
- 農場段階 GAP (適正農業規範)
- 製造加工段階 GMP (適正製造規範)
- それ以外 GHP (適正衛生規範)
「HACCPをやっている」とは?
「うちの店舗はHACCPをやっている」
「○○さんのお店はHACCPをやっていますか?」
と言われたり聞かれた場合、そもそも「HACCPをやっている」とはどういうこと?
簡単に言うと
科学的な食品衛生の管理手法をやっていること
= データで示すこと
と覚えてください。
HACCPに対する誤解
最後に
よくされる誤解3つについて
●HACCPは 全国共通の 資格や免許ではありません
●HACCPは 全国共通の 認証制度ではありません
●HACCPは 全国共通の マークはありません
⚠️ HACCP導入時の注意点とよくある誤解
💬 「HACCPは大企業向けの制度で、小規模店舗には関係ない」
→ 誤解です。 すべての食品等事業者が対象であり、小規模店舗でもHACCPに沿った衛生管理が求められます。
💬 「HACCPを導入するには高額な費用がかかる」
→ 誤解です。 導入にはコストがかかる場合もありますが、国や自治体の支援制度を活用することで、負担を軽減できます。
HACCP導入のステップ
- 一般的衛生管理の実施:施設の清掃、従業員の衛生教育など。
- 危害要因の分析:食品の製造・加工・調理工程でのリスクを特定。
- 重要管理点(CCP)の設定:リスクを管理するための重要な工程を決定。
- 管理基準の設定:温度や時間などの基準を定める。
- モニタリング方法の決定:基準が守られているかを監視。
- 是正措置の設定:基準から外れた場合の対応策を決定。
- 検証方法の設定:HACCPプランが適切に機能しているかを確認。
- 記録の保持:すべての工程と結果を文書化し、保存。
さらに詳しく学ぶには
HACCPの詳細や導入方法については、厚生労働省のウェブサイトや各自治体の窓口で情報提供が行われています。また、業種別の手引書も公開されており、具体的な導入方法を学ぶことができます。
🌐 Codex委員会とは?
Codex委員会(Codex Alimentarius Commission:CAC)は、国際連合の**FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が共同で設立した国際機関で、食品の安全と公正な貿易を目的に国際的な食品規格(コーデックス基準)**を策定しています。
この委員会の勧告は、世界貿易機関(WTO)の**SPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)**でも基準とされることが多く、各国の食品衛生法や輸出入規制にも強く影響を与えています。
HACCPもCodex委員会が採用した衛生管理手法の一つであり、国際標準として世界中で導入が進んでいる制度です。
Codex委員会「食品衛生の一般原則」(General Principle)
- 目的
- 範囲、使用および定義
- 一次生産(原材料の生産)
- 施設の設計および設備
- 食品の取り扱い管理
- 施設の保守およびサニテーション
- 食品の搬送
- 施設のヒトの衛生
- 製品の情報および消費者の意識
- 教育・訓練
上記はHACCP適用の前提条件プログラムの一部であり、Codex委員会が推奨する食品ごとの実施基準(Code of Practice)です。
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